Lover's Tour 名古屋編

ココロオークション

Lover's Tour

2022.12.09(金) @CLUB ROCK'N'ROLL

 

慣れ親しんだROCK'N'ROLL、名古屋老舗の箱。名古屋でのココロオークションのライブ、この箱で観ることがいちばん多いと思う。なんだか、安定の、って感じがする。アングラ系のROCK'N'ROLLとココロオークションのアンバランスな感じがどこか愛おしく感じるのは、彼らが音楽の沼にどっぷり浸かっていることの証明のようで嬉しいからだと思う。


開演前のBGMに文學少女があって浮き足立ってたら、あっという間だった待ち時間。ステージ袖の扉を開く井川さんが最初に登場して、順番にメンバーが揃った。大野さんがしきりに耳後ろくるくるマッサージしてて、そのツボなんのツボか後で調べようと思った。井川さんが「オッケー」って準備が整ったことを告げて、粟子さんがすっと片手を挙げて、はじまる、1曲目、ミルクティー

2曲目、ロックンロールに憧れてだなあってカウント構えてたら、心弾むような冬のイントロ流れ出して、セトリ!変わっている!星座線!!!ってなった。ライブを楽しみにしていた気持ちと同調しながら跳ねるように刻まれるテンポ。季節の訪れを感じる選曲、好き。星座線のドラム、わくわくする好き。

 

「コロナ禍でライブできひん時期とか、みんなのことを思って書き上げました。貰った愛を、今日はいっぱいお返しをするから、覚悟してね」「ココロオークションの歌だけど、キミの歌になってほしい」とはじまった、一等星の歌。星座線からの、一等星、星繋ぎだなあって。「踵鳴らす度」って歌詞に合わせて足トントンって仕草した粟子さんにきゅんでした。

そのまま、愛で溢れたLover'sに馴染む、愛のまま。「全部大丈夫」って、優しくキメたタイトルコールからの、全部大丈夫!

どの曲だったか忘れちゃったけど、曲アウトロで、ベースのつまみ絞る大野さんの動きがすすすって素早くて、当たり前だけど手慣れすぎてて、そんな些細な動作にさえ見惚れちゃう。なんて絵になるひとなんだと思った。演奏中の一挙手一投足、佇まい、カッコいい。すーってネックを滑ってった手がそのまま流れるようにさって前髪を払うのとか、とてもカッコいい。という、大野さんがとにかくカッコいいんだというお話。

 

流れ出すSEが直前までの弾むようにほっこりした空気を変えていく。無言のまま、一瞬にして、夏の終わりの寂しさに持っていく雰囲気づくりとか、そこに相応しいメンバーの佇まいとか、楽曲を魅せるための細やかな空気づくりから、好きだなあとしみじみ思う。いつまでも色褪せない名曲、蝉時雨。

 

夏の空気がすっかりROCK'N'ROLLのフロアに充満して、続いた、夏の幻。「夢から醒める」って歌終わりのあとに哀愁に嘶くテンメイさんの美しいギターの音色、同じテンションでぐわっと駆け上がる大野さんのベース。ふたりのテンションが自然と呼応していて楽器をくっと掲げる仕草がシンクロしてた。鳴ってる音もその光景もぶわって気持ちを昂らせる、端的に言って、エモいってやつ。

 

「次はかなり久しぶりの曲です。2018年かな、リリースしたアルバムの曲で、マイナー調でスローテンポで渋くて、なかなか普段できない曲なので、今回久しぶりにやろうと引っ張り出してきました。そうして思ったけど、俺がココロオークションで伝えたいことは変わってないんだなあと、安心した。力をつけたいまのココロオークションが演奏するとどうなるか、楽しんでください。一秒一秒を大切に、砂時計」

大野さんの滑らかな指づかいで奏でられるベースが、砂時計の深い世界に誘っていくような導入、螺旋状にぐるぐると渦巻きながら音の世界に潜っていく感覚がした。ゆっくりと確実にずっしりとテンポを刻み込む井川さんの力強いドラムが加わってさらに深く深くへ。家に帰って音源でセトリを並べたって、何したって再現できない、ライブハウスでの特別に感動して、彼らが音で描く世界に浸りながら、心が震えて泣きそうでもあるのに、どうしてか口元はにやついてしまう矛盾。良すぎて魅せられすぎると、笑ってしまうの不思議だ。

 

「ホタルのヒカリ」ってシンプルなタイトルコールからの、新譜Lover'sから3曲目、ホタルのヒカリ。ステージに灯る黄色の照明がまるで蛍の光そのものみたいにフロアに降り注ぐ。その下に少し遅れてオレンジ色の光が加わった、印象的なライティング。ROCK'N'ROLLの照明、こんなに綺麗だったんだ…ってちょっと別の感動を覚えた。

 

「愛、届いてる?」ってフロアに投げかける粟子さんの柔らかい雰囲気、ふわふわとその甘さでひとに幸福感を与えて虜にする綿飴みたい。ROCK'N'ROLLの30周年もお祝い。彼らとしてもここはいちばん多く訪れてる箱で、20周年のときもお祝いに来ていたらしい。テンメイさんの前任ギターと写っているココロオークションの写真が天井に貼られているらしい。「芋い僕らが見れます」って言ってた。今度来たときにじっくり探してみようと思う。

 

メンバー紹介します!ってタイミングでお水飲んでるテンメイさんに「お水飲んでる…」ってちょっと困ってる粟子さん、癒し。順番に「ギターテンメイ」「ドラムス井川聡、さっちゃん」「ベース大野裕司」ってメンバー紹介に、軽い調子で「うぇい!」って返す大野さん、うぇい!

テ「ロックンロールは、ココロオークションが名古屋ではじめてワンマンした箱で、8年前、とかですかね」

大「そんときもう(テンメイさんメンバーに)おった?」

テ「わたし、いました」

粟「一人称、わたし」

20代前半のあの頃から大人になって心が広くなった、ってお話。いままでだったら怒ってしまうようなことも、愛おしいなと思える。粟子さんが「色気出たもんな。昔はヒゲ生えてなかったし」って言ってテンメイさんの変化を語っていて、とっても同意した。テンメイさんの色気、わかる。めっちゃわかる。人懐っこくて無邪気で可愛い笑顔の末っ子ってイメージが強かったのに、そのイメージも内包したままいつの間にか漂いはじめた色気…わかる。好き。

テ「僕上京してて、スタジオ練習するときは大阪に帰ってくるんですけど、そういうときは実家に帰るんですね。その帰る手段が3つ!あります!ひとつは、JR」

井「(堪能な発音の)JR」

粟「さっちゃん英語得意やもんな」

井「JとRの発音だけで得意とか言わんでや!恥ずかしい!」 

テ「ふたつ目は、阪神電車

粟「それは普通に言うんや」

テ「みっつ目は、阪急電車

「全部電車やん」ってツッコんだのは誰だったか…、手段、電車、一択。

テ「阪急電車は特に、見た目もいいですよね、臙脂で。赤茶色っていうんですか、小豆色?」

粟「あずきバーの色やんな。まあ、説明せんでもわかるかこんくらい」

テ「中も、ふかふかの緑の椅子で。いちばん好きなんは、座席が一直線に横並びなとこで、でも久しぶりに乗ったら、対面の席が増えとって、知らんひとと向かい合わせになるの気まずいやないですか」

粟子さんがテンメイさんと向かい合って、ボックス席に対角線に座る様子を再現。「あれなんでちょっと斜めに座るんやろうな」「膝と膝当たらんようにしてんのかな」「ああ」みたいなやりとり。変わっていくことも「愛しいな」と思うというお話。

テ「でもまあそれは、見るだけでいいやと思って、(ボックス席には座らずに)眺めとったんです。そしたら、ひとりで喋っとるおじさんとか居るじゃないですか」

粟「関西特有のな」

テ「電話とかもしだして、なんやおら!、みたいな言ってはって」

粟「わー、俺なら車両変えちゃう」

テ「そういうのも、愛おしいなと」

粟「みんなあんまピンときてないけど…(笑)」

テ「大人になって変わっていくことも、そういう自分も環境も受け入れて愛していきたいなと、思います」

粟「隣に全く愛感じてないひとおるし」

テンメイさんのお話を、ずっと感情の読めない、あるいは無の表情で聞いてた大野さんが遠い目しながら「心広くなったなあ…」って独りごちた。

粟「話長いな…って顔してる」

大「あとで愛ある反省会しよ」

井「怖いやつやん(笑)」

テンメイさんのMC、その結論に行くのに、その入口でその角度で話しはじめるの?って感じがシュール。入口から出口まで意図して最長ルートを選んで進んでるみたいな不思議な魅力があって、じわじわくる。彼が「愛おしい」って言うの、お見送り芸人しんいちが「好きー」って歌うのと同じ手法だと思う。これ結構自分のなかでしっくりくる表現。でも、変わっていく周囲も自分も受け入れて愛していこうって着地点は、密かに響いています。綺麗に素敵に着地したなって思いました。愛おしい。

 

粟子さんが井川さんに、次の曲振りをお願いして、はじまる一人二役のさっちゃん劇場。某夢の国のねずみのキャラクターのモノマネで元気よく話しだす井川さん。

某「さっちゃん、いつものやって盛り上げてくれよ」

井「さっちゃんさっちゃんコール、やる?」

某「そっちじゃねええ!なんでこのコロナ禍でさっちゃんコール求めるんだ!なんて奴だ!」

大「ミッキー詳しいな」

某「次の曲にいく、飛べるやつ、やってるそっちだよ!」

大「結構通ってんな」

井「んー、ミッキー代わりにやってくれへん?」

某「仕方ないなあ」

大「やってくれるんや」

折角だから、新しい盛り上げ方をしようって夢の国のねずみが先導する。ご乱心で思わず漏れちゃう関西訛りに「ミッキー関西弁?」ってちゃんとツッコむ大野さんもいました。

某「ユー キャン フライー!ユー キャン フライ!ココロオークション イズ フライー!じゃあ、この後粟子がカッコよく次の曲の振りしてくれるから、よろしく!」

粟「そうなるんや、はじめてのパターン」

さっちゃん劇場、そのシュールさでじわじわとフロアを侵食していって、面白おかしく盛り上げていく、ココオクワンマンの名物コーナーだと思う。ひーひー笑いすぎて、私はちょっと涙目になりながら迎えた曲、フライサイト。一斉に掲げられたフロアの腕。音楽に呼応する熱気が、愛おしい。テンメイさんが熱烈に「愛してるー」って叫んでた。

 

ノンストップでの、ハンカチ。アップテンポの曲連投、曲に呼応してテンションを高めるフロアの熱、足りなかったものが満たされていくような幸福感を孕んだ興奮のなか、粟子さんが叫んだ「みんなまだいける?火花!」。四つ打ちのリズムがまるで、いまこの瞬間に懸命に燃える命を、この場所に刻んでいるように熱く響く。そうやってステージの上に立つ姿を目に焼き付けられることも、こうして同じ空間を共有できることも、嗚呼、幸せだなあ、と思う。溢れんばかりの愛が、燃え盛る炎のように熱く温度を上げて、ライブハウスに灯っている。

 

粟子さんのタイトルコールに合わせて、パッと輝きながら回転をはじめるミラーボール。きらきらと瞬きながらステージを、フロアを、照らすその光は星の煌めき。星の傷。

 

「素敵な景色を見せてくれてありがとう」って、景色の花束。冬の星空も夏の空気もライブハウスの愛おしい光景も、あなたたちの曲が見せてくれる景色、この場所でしか見られない心を震わせる景色に、ありがとう、って思うのは、私の方。

 

「終わりがあるからいまが愛おしいんだよな、って、ずっと歌ってるけど、本当にそうだと思う」「いま、幸せ、って思えることって、すごいことやと思う。うん、俺、いま幸せやねん

粟子さんが「自分の気持ちを表現できた曲」と紹介した、僕らは愛の中。ROCK'N'ROLLの決して大きくはないステージが、急速に広がっていくような、スケールの大きさを感じた。大きな愛に包まれているような幸福感で、湧き立つ気持ちを解放させたいと叫ぶ想いとは裏腹に、全身で音を浴びる心地よさに立ち尽くすような矛盾。ココロオークションのライブでしばしば体感する、良質な音楽でいっぱいに満たされているときの生体反応。

 

アンコール。再びステージに戻ってきたメンバーたち。センターに立って夢の国のねずみ声のままグッズ紹介する井川さんと、ドラムの椅子に座ってそれをバスドラ踏んで盛り上げるテンメイさん。井川さんの隣で大野さんがさっとひと言「本田圭佑」と告げた。モノマネ芸人にリクエスト振るみたいな間。すかさず反応する井川さんの対応力。靴下が大好評で、黒は売り切れたって説明のあと「課題はやっぱり、黒の需要。今回でいくつか改善点も分かったんでね、活かしていきたいと思ってます」って、キーワード押さえてる感じ、クオリティ高い。ちゃんとモノマネしてる。非常に完成度高いと思いますね。

大「ミッキーなあ。どうしようなあ」

粟「消されるかもしれへんもんな」

大「名古屋はマスコットキャラ居らへんの?」

粟「モリゾー?」

アンコールのゆるっとした雰囲気のなか、大野さんが閃いた!みたいな勢いで、「ジブリパーク行った?」ってキラッとした瞳でフロアに尋ねた。がしかし、フロアの反応は乏しい。

大「地元愛ないなぁ。レゴランドは行った?」

やっぱりあまり反応はなし。

大「名古屋ヤバいな。流石に矢場とんは行ったことあるやろ?」

粟「なんで名古屋って中華多いんかな。打ち上げの時間に空いてる店がそこしかないんか」

粟子さん粟子さん、それはきっと名古屋じゃなくて多分新栄の話。粟子さんの頭に浮かんでる中華店、絶対杏花村だ…って思った。

粟「言うてる間に、すぐ名古屋来ます!12/24です。もう予定あるひとも多いかもしれないけど…」

大「ジブリパーク行ってへんひとら予定なんかないやろ」

安定の、非リア充に厳しい大野さん。世知辛い。

 

「最後は、特大の音楽への愛で」って粟子さんの曲振りで、井川さんがはじめるアドリブちっくなドラムロール。「この入り方は、はじめてのパターン」って粟子さんが驚き半分で反応して、メンバーみんなが井川さんを振り返って、それぞれに音を連ねながら、最後の曲を盛り上げていく、ヘッドフォントリガー。嗚呼ライブだなあ、最高。「名古屋のスーパーシューター」だったの、名古屋公演、って感じで愛おしかったです。

 

求めていた幸福感が、満足感が、あった。音楽が、ココロオークションが、大好きだ、楽しい、っていう熱気。ステージとフロアが呼応して生まれる空気感、Lover'sってタイトルによく似合う、愛で溢れる熱い空間。はーー、カッコよかった!

 

01.ミルクティー
02.星座線 
MC 
03.一等星の歌 
04.愛のまま 
05.全部大丈夫! 
06.蝉時雨 
07.夏の幻 
08.砂時計 
09.ホタルのヒカリ 
MC 
10.フライサイト 
11.ハンカチ 
12.火花 
13.星の傷 
14.景色の花束 
MC 
15.僕らは愛の中 

en.ヘッドフォントリガー