Lover's Tour 大阪編

ココロオークション

Lover's Tour

2022.12.03(土) @福島2nd LINE

 

セカランの無人のステージにふわふわと漂いはじめたスモークが、開演時刻が近いことを教えてくれる。それからしばらくして場内に流れ出したお馴染みのSE。いつものように、いちばん最初に井川さんが登場して、しっかり前方まで進んでフロアを見渡して「よろしくー!」とひと声。のちのMCで、出番前の準備が時間ぴったりだったと大野さんにリークされていた。「上着脱いで、財布置いて、って準備終わった瞬間にSE流れ出したな」って。続くようにステージに揃った残りのメンバーたち。

 

井川さんの準備が整うのを待って、鳴らされた最初の曲、ココロオークション Lover's Tour 初日大阪のはじまりの曲は、流れ出すSEからはじまるミルクティー。軽やかに刻まれるテンポが、気持ちを前へ前へと連れていくようだった。前のめりな気持ちを加速させるように、軽快なカウントで繋いで、ロックスターに憧れて。綺麗に揃ったフロアのクラップが気持ちよかった。


「聴いてくれて分かったと思うけど、Lover'sは俺らの愛を詰め込んだアルバムです。だからこのツアーは、いつにも増して、愛を込めて演奏します」粟子さんが紡ぐ愛の言葉は、いつもほっとする温かさだなあと思う。優しく丁寧に紡ぐ音と言葉。俺たちの歌で幸せになってね、ってニュアンスのことも話していたと思う。みんなに、じゃなくて、キミの、歌になってほしいと強調して紡いだ言葉にじんときた。


そんな愛いっぱいの新譜から、さっそくの初披露、一等星の歌。「その心枯れてたって 浴びせるんだぜ とびきりのシャワーを」って歌詞好きだなあ。その後のドラム回し、サビに向かってぐっとテンションを持っていってくれる井川さんのドラム、本当にとても心が跳ねる、好き。ピンスポ浴びる井川さん素敵でした。 

繋いで、Lover'sに馴染む選曲が素敵な、愛のまま。新曲2曲目の披露は、全部大丈夫!。ココロオークションから放たれる愛でフロアが満ちていく。愛しさいっぱいの空間。


「夏の曲やっていい?」ってフロアに尋ねる粟子さん。どことなくイタズラを仕掛けるみたいな伺い方で愛らしかった、蝉時雨の曲振り。

ココロオークションが魅せる夏の余韻に浸りながら、更に深く浸りたいと次の曲をじっと待つフロアの空気感。こういう静寂が心地よいと思う。井川さんのカウントから、雨音。大野さんとテンメイさんが視線を合わせながら微笑み合ってたような気がした。


「次はすごく久しぶりの曲を。より深い世界へ。Lover'sを作って、昔からココロオークションの伝えたいことは変わらないなと思った。よっしゃよっしゃとガッツポーズした」って語る粟子さんの口から「ディープディープラブです」って単語が出た瞬間、間髪入れず飛んだ大野さんからのツッコみ「ディープディープラブ?!キモない?」とても小気味よい勢いでした。

ゆったりしたテンポで重く深く刻む井川さんのドラムが、蝉時雨と雨音で繋いだ夏の景色から連れ出して、深い深い世界へ誘っていくように響いた。そうして辿り着いた世界の景色を鮮明にするようにはじまった、久しぶりの、砂時計。終わりがあることを受け入れて、だからこそ美しく愛おしい“いま”を大切に、言葉も音も雰囲気もそう語っている。本当に、ココロオークションの大切に歌っているものは、変わらないんだなあと思いながら、曲の世界に浸っていた。曲終わりにすかさず「ディープディープラブやった?」って確認する粟子さんにほっこり。


間にメンバー紹介。粟子さんが順に、テンメイさん、井川さん、大野さんと紹介して、最後に自分。ひと巡りしたところで徐にとても落ち着いたトーンで話しはじめたテンメイさん。

テ「いやー、あったかいですね。照明も倣って暖色系が多い気がする。そんなことない?」

粟「集中しててあんまり気づいてへんかった」

テ「いつもはひとりで喋っておかしなテンションになってますけど、今日はみんなで喋っていきます」

テンメイさんのいつものMCのハイテンションを想像して粟子さんが「能力を五角形にすると、俺も変やねんけど、そんな俺がいちばんまともなんじゃないかと思うくらい特化したメンバーが揃ってる。パラメーターめっちゃ尖ってる。10°くらい。二等辺三角形みたいな」って、如何に不思議なメンバーが揃っているかを面白おかしく語ったその横で、「ほなコーンフレークとちゃうか」って大野さんが発したの、個人的に特大のツボだった。ミルクボーイお好きですか。

テ「Lover'sってアルバムを作って、今までならちょっとな…と思うことも愛おしいなと思えるようになりました」

粟「例えば?」

テ「コンビニでお酒3つ買ったんですよ。1個ピッてやって×3すればいいのに」

大「おんなじやつ買ったんやな」

テ「1個ずつやったら3倍時間かかる」

粟「経験者は分かるけどなー」

テ「そういうのも愛おしいと思える」

天六の交差点でお酒飲んで自転車運転してたおじさんにすれ違いざま唾かけられても愛おしい、と加えたテンメイさんへ、「さすがに唾かけられたら怒ってもええと思うで」って大野さん。それで怒らないのは人間止めてる、ってニュアンスの主張をする粟子さん。話を聞きながら、テンメイさんは寛大なのか狭量なのか、よく分からなくなった。

天神橋筋六丁目、略して天六。そこにあるらしいココロオークション御用達のスタジオ、246 GEN。通いすぎてポイントカードのポイントが550くらい貯まってるとか、いつからか予約名が個人名の大野からバンド名のココロオークションに変わったとか、店員さんが電話番号見るだけで「あ、大野さんですね!」って気づくとか、そんなお話。

天六で自転車漕いでるひとはふらふら震えてる傾向にあるらしい。そんな、地域性。そんなところも愛おしくて好きで通ってるスタジオだ、とも言ってた。

 

上京中のテンメイさんが、久しぶりに梅田で空気を吸ったら美味しく感じた、って話に、「梅田は大阪のドブみたいな空気」って大野さんが辛辣に言い放った。大野さん、今日とっても辛口だなあ。

テ「それでも東京に比べると美味しい」

大「東京は日本のドブやで」

井「言葉が過ぎる(笑)」

終始ゆるっとエピソードに、ピリッとツッコみも交えて進んでいくメンバーの会話。

粟「さっちゃんは愛に溢れてるもんな。いつもスタジオ終わりとか、肩ポンッてして『粟子、気をつけて帰れよ』っていい声で言ってくれるやん。もう家族同然の距離感やから、いつもくすぐったいんやけど。いいねんで、いいねんけど」

大「先、車で帰るときとか、ルームミラーで(人差し指と中指2本でチースってする仕草)ってやってんの知ってる?」

井「よく見てんな(笑)」

テ「でも、いちばん愛おしいのは皆さんですよ」

突然のテンメイさんの甘いひと言に、上手いこと言うやん、ヒュー!って空気が充満した。

MCがひと段落して、粟子さんがくるりと背を向けて井川さんに何か告げる。

井「俺がするの?このまま曲いってもよかったと思うけどな…」

大「そういうのはあとで言ってや」

井「じゃあ、やる予定だったやつをやります」

はじまった、さっちゃん劇場。裏声高音で某夢の国のねずみのキャラクターのモノマネしながら一人二役をこなす井川さん。

裏「ハハッ、さっちゃんさっちゃん、いつものやつやってよ」

井「ちょっと今日はできへんかもなあ」

裏「さっちゃんのあれがあるから、いつもいい感じに曲にいけるんだよ」

大「いつもとか、ミッキー、ココロオークション知ってくれてるんや」

井「いやでもなあ…」

裏「じゃあ僕が代わりにやるよ!これから、みんながテンション上げられる魔法の言葉をプレゼントするよ!」

大「お、ええやん」

粟「急にクオリティ高くなったな」

裏「アイ キャンーフライー」

客「(フライーと言いたい気持ちで)(拳あげ)」

なんとも言えない空気感で、さっちゃんが耐えきれず「チクショウーコロナ禍が憎いぜ」ってねずみ声のまま言った。すかさず大野さんが「ミッキーコロナ禍とか言わへんやろ。夢壊さんといて」ってツッコみ。

裏「ユー キャン フライー!ウィー キャン フライ!ココロオークション イズ フライ!」

ねずみ声のままのさっちゃんのカウントから、もちろん、フライサイト。テンションハイのまま、ハンカチ、「火花!」ってタイトルコールからの火花。ぶち上げゾーンだと思う。

 

ホタルのヒカリは、テンポを刻む打ち込みのSEはじまり。そこに井川さんのドラムが絡んでいく。粟子さんの歌声、綿飴みたいにふわふわで甘くて優しいなと思った。歌いながらギター忙しそうだなあと思ったところ、あったんだけど、この曲だったかなあ。曖昧記憶。ついでにこの曲も、このあとの景色の花束、星の傷の曲順も曖昧記憶。名古屋で答え合わせできますように。でも、セトリ変わってたとしても大歓喜

 

「寂しいからできた歌を」って簡単な曲振りからの、星の傷。そして、景色の花束は、すごく久しぶりに聴いたんだ。「忘れないから 忘れないで」って歌詞がきゅっと心臓を掴む、推し曲。歌詞に出てくる電車って単語と、時折聞こえる頭上を通過していく電車の音。他の曲でも、公演中何度かあった、曲終わり、狙ったかのようなタイミングで頭上を電車が通り過ぎる。楽曲が見せていた景色と現実の世界がリンクするような瞬間が、高架下にあるからこその、セカランの愛おしいところだなあ。

 

「大変なことが起きてます。いままででいちばん、終わるのが早いかもしれん」って言ってたなあ。本当にあっという間だった。今何曲目か、指折り数えて、終わりが近づくごとに、ああ足りないなあ、まだずっともっと、聴いていたいのになあ、って思わずにはいられなかった。


「寂しくなったら、いつでも会いに来て。イヤホンのなかにいつでも。ライブも、俺は音楽が大好きやし、多分ずっと、音楽やってるから」コロナ禍でのライブ、粟子さんは毎回そうやって続けていくことを言葉にしてくれている気がする。いつか終わりがくることを、いつか居なくなってしまうことを知っている彼らがする、未来の話。どうしたって特別だと思う。


最後の曲、僕らは愛の中。ここに言葉なんて必要だろうか。いまが愛おしくて、だからこそ終わりに怯えて、だからこそ大切で愛おしいこの時間。


アンコール。さっちゃんのさらっとグッズ紹介もねずみ声ではじまった。大野さんの「もうそれでやってくんやな」って念押しに、さっちゃんの返答は「次の公演からもやってくかは要検討」。ほかにもモノマネできる?って無茶振りにドナルドダック初披露。結構いい感じ(粟子さん評)。


「今日ずっとお腹痛いねん。あ、お腹痛いっていうのは、届けようと思ってお腹から歌う日はいつもお腹痛くなるんやけど、今日はもう3曲目くらいから痛くて。それくらい届けたいって気持ちが強かったんやなあって思います」

「たくさん愛を込めて愛を歌ってきたけど、最後は音楽への愛を込めて、みんなで楽しい気持ちで終わりたいと思います」

そんな感じの、アンコール、ヘッドフォントリガー。大野さんとテンメイさんの掻き鳴らし合い、カッコよすぎてもう。にっこにこでお互いに弾き合ってるの愛おしすぎてもう。大野さんの指づかいと聞こえるフレーズがもう!!好き!!


ワンマン尺たっぷり16曲、振り返ってみると十分な曲数の満足度。でも、16曲も聴いたのに、終わっちゃう寂しいまだ、まだ浸っていたい寂しい。とびきり温かくて幸せだからこその切ない気持ち。私にとっての生きることは、こんな、心を優しく包み込むような切なさを繋いでいくことだと思う。生きるということは切なさ刻むこと。ココロオークションが紡いでいくいまもその先も、これからも追いかけていけたなら、それは確かに幸せな未来だと思う。