注文の多い料理店-☆☆☆- 名古屋編

BURNOUT SYNDROMES

東名阪アコースティックワンマンツアー

注文の多い料理店-☆☆☆-」

2022.05.07(土) @ell.FITS ALL

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東名阪という限られた地域でのツアーだったことと、1日に2公演っていう時間も楽しさもぎゅっと凝縮された濃厚なフルコースを味わってきたことも相まって、吃驚するくらいあっという間に迎えたツアーファイナル。2022年5月7日(土)、名古屋編。会場は大須にあるell.FITS ALL。ここは、はじめてバーンアウトのライブを観た場所。個人的な思い入れがいくつもあって、どうしたって感慨深くて、今更ながら無性に緊張して少しだけ吐きそうな浮遊感を、落ち着かせてくれる人たちがいて、賑やかに和気藹々とした待機時間。こういう思い出をこれからも積み重ねていくんだろうなって思える幸せは、ライブに足を運ぶひとつの理由でもあると思う。


フェードアウトしていくフロアの明かりが、喧騒も一緒に連れていった、刹那の静寂と暗転。ステージを遮っていたスクリーンにオープニング映像が灯る。月夜に佇む怪しげな西洋館。羽ばたいていく蝙蝠たち。不意の「にゃー」というひと鳴きの発生場所を探して動く映像の視点。真っ黒な猫の影が、怪しげな目を光らせて、館の窓からひょこりと姿を見せた。招かれるように歩を進め、扉の横に置かれている案内表に視線が移動する。メンバーそれぞれの声が、この怪しげな館が一体何であるのかを読み上げた、音声案内。


「本日はご来店誠にありがとうございます。当店は、耳で楽しむフルコースをご堪能いただけます」熊谷さんの声が、この西洋館の全貌を告げる。続いて石川さんと廣瀬さんの声が丁寧にフルコースのメニューを教えてくれる。

-menu-

本日限りのアミューズ

〈前菜〉

3奏のミルフィーユ〜緩急を添えて〜

〈スープ〉☆当店の目玉料理☆

無茶振りの激辛スープ

〈魚料理〉

再会のアクアパッツァ

〈肉料理〉

思い出のグリル〜ノスタルジックソース仕立て〜

〈デザート〉

最後のお楽しみ


(石)また、当店は注文の多い料理店ですので、以下のことを必ずお守りください

(廣)その1

大きな声を出す必要はございません

(石)その2

シェフからの注文にはできる限り応えてあげてください

(熊)その3

どんな時も楽しむ気持ちを忘れてはいけません

守れる方はどなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。3人のシェフが皆さまのご来店を心待ちにしております。それでは、ディナーをお楽しみください。


「「「ようこそ、注文の多い料理店へ」」」


シェフたちの揃った声に導かれるようにして、赤黒い扉を開けた。ステージを遮っていたスクリーンがゆっくりと上がり、上手からメンバーの登場。何回観ても素敵に無敵な熊谷さんの上下白色のハイウエストスタイルが、のちにあんな騒ぎを引き起こすなんて、このときは微塵も想像してなかった。


まずは最初に、本日限りのアミューズ。このツアーのために調味された、星の王子さま。ハンドマイクの熊谷さんと石川さんがお互いに顔見ながら歌いあってるの微笑ましい光景。廣瀬さんはベルトでスネアドラムを腰に提げ、マーチングスタイルでリズムを刻む。


「まずは前菜です。手拍子をしたり、身体を揺らしたり、お好きなようにどうぞ最後まで!お召し上がりください」熊谷さんの声の流れるなか、3人がそれぞれの場所について、緩急を添えた3奏のミルフィーユ。1奏目、軽快なテンポではじまる、世界を回せ。正解のわからぬ不自由さこそが自由だ、なんて歌届けに「来たぜ名古屋!」って放つ熊谷さん。大好きな声が地元の名前を呼ぶ、なんて幸せな瞬間。どこかで石川さんが主旋律で熊谷さんがコーラスにチェンジした箇所あった気がした、今更かもしれないこの日の気づき。「延期延期のトラブルも 愛しいあなたと笑い飛ばして」ってずっと歌い変えてくれていた歌詞が、このツアーへの想いまるっと全部を幸福な思い出にしているんだと思う。


世界を回せの余熱のなか、熊谷さんが拳を掲げることを促して、あるいは促されるまでもなく、固く高く握りしめて掲げた拳ではじまった、2奏目、PHOENIX。敵の鉄壁砕くように天高く突き上げられる熊谷さんの拳、カッコいい。曲終わりに、フロアの暴れっぷりを褒めるなんてことも、アコースティックライブってパッケージからは想像していなかったことなのかなって、ファイナルを終えたいま思い返す。でもだって、TOKYOツアーで熱量を増し続けたPHOENIXは既に私たちの血肉になっているから、それがふっと滾ったみたいな熱気を生むのは自然の理。それが彼らの想像を超えたのなら、それはとても顔が綻ぶことだ。


2部の2奏目は、和楽器を添えた、花一匁。熊谷さんのテンポを刻んでる脚の動きが、クラップを煽ってるように力強くて、愛おしかった。アコースティックで、手元に制限があるのも関係なく全身で煽りにきてるように感じがして、愛おしかった。毎回思ってるけど、「制定しましょう そうしましょう」の石川さんのコーラスすごい好き。


束の間の暗転に、廣瀬さんが前に出てきてカホンに跨がり、石川さんはアコースティックベースに、熊谷さんはクラシックギターに持ち替えての3奏目、夕闇通り探検隊。ハイテンポで届けられた前菜の、緩急の急から緩へ、きっとここが切り替わりポイント。

「大人の闇に大なり小なり 毒されていたんだって」

「以上が 僕がミュージシャンを目指す動機になります」

「音速で駆けてけ」


「初めて名古屋ワンマンした場所なんでね、思い出深いですね」って石川さんがふわって口にしてくれた、1部。初バーンアウトがこの会場だった私には、そんな何気ない一言が特別だった。「ツアーファイナルだから寂しいけど、でも安心してることもあります」って意味深な発言のあと、鳴らすベルの音と「オーダー!」ってひと声。陽気なジングルを手拍子で迎える回替わりコーナー、無茶振りの激辛スープ。


石「もしかしたら他の会場来てくださった方は、僕の前にある機材なんやねん、と気づいてるかもと思うんですけど、もうもう、先に無茶振り発表しちゃいましょうか」

1部の無茶振りは、〈楽器をシャッフルして演奏してください〉。300件以上あった激辛のスパイスの半分以上がこの楽器シャッフルだったそうで、「一体我々に何を求めているのか」って熊谷さんが冗談混じりに口にした。

熊「これだけ要望があったら何処かでやらないととは思ってたんですけど、なんで最終日になったかというと、全員死ぬほど練習する時間がほしかったからです」


石「廣瀬くん何やる?」

廣「じゃあ、練習してるし、ギターを」

石「はい、きました!オーダー!」

再びの軽快なベルの音に導かれて、上手から登場する黒のレフティギター。

熊「廣瀬くん以外弾けないギター」

廣「はじめて1年とかなのにもうライブで演奏しようとしてるの、ある意味すごいよね」

石「僕はドラムやりますよ。本物じゃなくて」

石川さんがボタンひとつで操る沢山の音の素材。明らかにいしかわたいゆーボイスの「どん」「たん」って擬音。ビートボックスでさえなくて、擬音。ちょっと間の抜けた音は、盛大なツッコみどころ。

熊「なんですかそれ」

石「こんなんじゃなかったっけ、廣瀬のドラム」

廣「それは心外だよ」

熊「心外やな」

石「じゃあじゃあ、こっちは?」

って披露された、料理の音。蛇口捻る音、お肉をぶっ叩く音、コンロで火をつける音、などなどのビートボックス。

石「どっち使う?」

熊「料理の音に決まってるやろ」

石「いやー、わかってへんわ、オーディエンスの気持ちを。ねえ?どっちがいいですか?」

熊「選ばさんよそんなん!どん、たん、なんて使えるかい」

石「まあ、このふたつしか用意してないしな(笑)。じゃあ、熊谷くんは…」

熊「残ってるのベースしかないんで」

石川さんのクリーム色ベースを借りたことで、楽器含めてさらに白さを増した熊谷さん。再度にはなりますが、この白さがのちにあんな騒ぎを引き起こすなんてこのときは微塵も想像していなかった。もとい、熊谷さんがベースを構えているということの興奮に比べれば何もかもが意識の外。歌ばかりは代われない、ということで、ベースボーカル熊谷和海の誕生。全てが激レア。


「あとで盛大に祝ってもらうんでいまは拍手とかいいんですけど」って熊谷さんが話はじめたBURNOUT SYNDROMESが17歳になったっていう超弩級にめでたいお話。17年メンバーチェンジなしで続けられているっていうのは奇跡のようなことで、「何か少し違ったら、もしかしたら、あなたと出逢ってなかったかもしれないし、本当にこんな形態だったかもしれない。この楽器シャッフルも、並行世界の話だと思って聴いてください」「隣からふたりの緊張感がびしびし伝わってきます。僕も緊張しています。温かい目で見てください」選曲は、この日限りの特別過ぎる、Hikousen。


脚組みながらギター奏でる廣瀬さんは、ねえ、スタイル良すぎない?って思った。熊谷さんのおててがベースを指弾きするのはもう、自分の邪な思考に恥ずかしくなっちゃうくらいに魅惑的。最後に、石川さんが操る機材から鳴る「ありがとーう!」の連投。


熊「並行世界シンドロームズでした。どうでした?」

石「はじめてのワンマンの感じよね」

熊「ワンマンまでいかんよ。初ライブくらいの感じ」

石「コピバンのイベントやったね」

熊「高校生のイベントに、中学生なのに高校生と偽って、全曲オリジナルで出て」

石「作詞作曲、熊谷和海で」

熊「知名度ゼロよ」

石「終わったら公園で反省会して、何がいかんかったんや…って」

熊「何って、存在よね!コピバンイベントにさー」

石「求められてるものと違うことしてたな(笑)」


ばちばちにキマってるとは言い切れない演奏も、シンプルな手数も、伝わる緊張感も、私には決して知り得ない結成当初の彼らの姿を垣間見せてもらっているような心地がした。私には私だけの出逢いがあって、いまはもうそれ以外を想像して嫉妬や劣等感に似た感情を抱くこともないけれど、当初は確かに存在した、尖りきった過去や彼らの当時をどうにかして…っていう傲慢な欲求が、不意に形を変えて、少しだけ叶ってしまったような、並行世界シンドロームズはそんな僥倖でした。


他にも、こんな無茶振りが、と紹介されたのは、〈ナイトサイクリングを自転車を漕いで発生した電力で演奏もしくは照明演出〉

熊「なにが、もしくは、やねん(笑)」

石「これきたときやりたいって思ったもんな」

熊「昔、MAGIC OF LiFEってバンドのイベントにゲストで呼んでもらったことがあって、彼ら弱虫ペダルっていう競技自転車のアニメの主題歌を歌ってるんですよね。折角だからそれをカバーしながら、何か面白いことをやろうぜって考えてて、石川くんに自転車漕がせようとしたことがあります。途中で停電させて、『もっとケイデンスを上げろ!』っていう演出をやろうとしてた。結局やれなかったんですけど。それと発想が一緒(笑)似てくるんですね」

石「これはでもほんまにいつかやりたいな(笑)」

熊「それまでにじゃあ、石川くんには太腿鍛えてもらって」


「名古屋は、昔から温かい土地だなって思ってました。いまは僕が東京に住んでいて、彼らふたりは大阪で、名古屋がちょうど中間地点なんですよね」って熊谷さんの言葉に石川さんが「大阪寄りよ」ってフロアにも同意を求めた。確かに大阪の方が値段も時間もお手軽に辿り着きます。でもまあまあ、いまだけは中間地点でいいじゃない、という気持ち。名古屋はBURNOUT SYNDROMESの「ランデブーポイント」なんだって、熊谷さんが表現した。なんて素敵な響き。


あとどこかで、熊谷さんがいいお話はじめようとしてるのに「イキってネックレスつけてきたらイヤモニに絡まった」って報告してきた石川さんに、「もう君は帰っていいよ。人が折角いい話しようとしてるのに…」ってズバッとツッコんだとこ、あった。仲良きことは美しきかな。

 

夕闇通り探検隊後、2部では執拗に妙なテンションの石川さんにお出迎えされた。

石「ようこそいらっしゃいました!ようこそいらっしゃいました!ようこそいらっしゃいました!」

熊「なんか態度変じゃない?」

石「もう閉店間際やで!!」

熊「そんで態度悪くなんの?!」

石「ファイナルのファイナルなんでね、もうFFです。ありがとうございます!!」

熊「お!」

石「なんか嬉しそうやな」

熊「ちょっと感心してしまった」


「何を隠そう、熊谷和海Twentiesラストライブでございます!」って盛大な石川さんの煽りに、「もうすぐ三十路!」ってがっくり腰を折る熊谷さん。すかさず「もう三十路!」って被せる石川さんの見事な連携プレー。それを微笑みながら我関せずと見守っている、来年に三十路を迎えるはずの廣瀬さん。

石「年齢公表しんかったらよかったよな、俺ら。絶対見えへんやん30には」

熊「いやーちょっと待ってよ。でもバンド年数は出すわけでしょ。我々もう17年やってるわけですよ。それで年齢非公表だったら、40代に思われるで。我々の周り、17年続けてるバンドみんな40代よ、だから公表でよかった」


そして、石川さんが発する「オーダー!」の濁声と鳴らす銀色のベルの音が告げる、回替わりコーナー、無茶振りの激辛スープ。軽快なジングルにフロアの手拍子を添えて、ファイナルのファイナルはさらに特別に、熊谷さんのハモリを加えて。

石「あれ?俺ハモリ入れてたっけ?」

熊「ファイナルだけ。激辛スーープ♪」

石「入れようとしてやめたやつや」

熊「(笑)」

この料理店、最後の最後に選ばれたスパイスは、本ツアーで3度目の〈昔廣瀬さんが使っていたというガラクタドラムの再現をお願いします〉。マイクを持って、説明しようとする廣瀬さんに対して、「俺、百聞は一見に如かず派なんよね」って石川さん。廣瀬さんが言葉を続けようとする度に、石川さんが遮るように「百聞は一見に如かず」って主張し続ける。

熊「早く見せたいのね?」

石「そう!俺は一見派やけど、廣瀬くんは百聞派で…」

熊「はよやれや(笑)」

石川さんの後ろに置かれていた黒のバックドロップが移動され、現れたガラクタドラム。廣瀬さんによるガラクタドラム実奏解説と、石川さんが鳴らす本物のドラムとの音色の聴き比べ。熊谷さんが全部に「同じ!」「ガラクタドラムのがいい」って反応するから、ふやけた顔で笑ったまま「俺の耳がおかしいんか?」って言葉では不服そうに返す石川さんが楽しそうで可愛いと思いました。最終的に全部「プレイヤーの違い」でガラクタドラムに軍配が上がる、ナカヨシンドロームズの戯れ合い。仲良きことは美しきかな。


「どんな音だって、あんなクソみたいな音だって、音楽になる」なんて、散々ガラクタドラムに軍配を上げておいて、クソみたいな音って言い放つ熊谷さんの潔さと荒い言葉遣い。それに対して「クソみたいって、言っちゃった(笑)」って笑う石川さん。語られる音楽の懐の深さ。「さっき石川くんは、稀有な声だって言ってくれたんですけど、僕自身は別に自分の声が好きなわけじゃなくて、ただ、歌を歌っているときは、認められているような気がしています。僕らがいまできる曲のなかで、おそらくいちばん古い、ラブレター。という曲を」


「当時、自分が何を書きたいのか、どういう意味なのか分からず歌詞を書いてた。17年越しに、今日、音楽への感謝を歌ってた曲なんだとわかった」って、曲終わりの熊谷さんが語った。きっとこの日を境に、ラブレター。は一層特別になるんだ。この曲が、彼らのバンド人生を変えた曲であるという大切な事実。大阪の小さなライブハウスで、他バンドの演奏を聴いた石川さんが「ええなあ、ああいうポップなん作ってやー」ってかるーく熊谷さんにオーダーしたらしい、もしかしたらそれが、最初の激辛スパイスなのかもしれない。


「僕は、むしろ縛りがある方が楽しい。オーダーを受けて作るのは嫌いじゃないです。タイアップがなくても、あなたの人生のタイアップだと思って曲を作っています」「アニメのタイアップもアニメって時点でオーダーな訳じゃないですか。どうその作品の世界観に応えるか。一昔前は、バンドがタイアップするなんてどうなんだ、っていう雰囲気はありましたけど、いまは、バンドが楽しんでタイアップができる、いい時代だなと思います。さっき、ラブレター。が僕たちの人生を変えた曲と言っていましたが、今から歌う曲も、僕たちのバンド人生を大きく、さらに変えてくれた曲です」


そうして、いつの間にか、石川さんがベースを置き、シェイカー片手に、提供されるお魚料理は再会のアクアパッツァ。彼らのメジャーデビュー曲、FLY HIGH!!。「飛べ!」って熊谷さんの第一声が、優しく木霊した、特に2部。全力疾走のテンポで力強く背中を押す応援歌のバンドサウンドとは別の、アコースティックアレンジの魅力。寄り添うように歩幅を合わせて、優しく包み込むような、そんな気持ちで歌ってきました、ってニュアンスのことを言っていた気がする。「最後はみんなで手挙げていきましょう!」って毎回の石川さんの声を受けてのラスサビ。


続いて、アコースティックの温かい空気感のなかにも、鋭い顔を覗かせる、ムーディーでカッコいいアレンジのハイスコアガール。本当に音源化してほしいほどにカッコいいアレンジだと思う。ちょっとだけ強調された「ナゴヤ撃ち」の愛おしさ。「一人より僕ら 四人で」ってひとフレーズまるっと歌い変えられていて、なんか堪らなく幸せだった。

「どんなに先が見えなくても、この先もずっとあなたと一緒に戦って行くよ」

歌詞の一節というより、熊谷さんの言葉にメロディをつけたようなそんな、曲終わりの旋律が、宝物。


石「ラスサビ前で笑ってもうた。最後だから言うんやけど、今回アコースティックだから、みんな揺れながら静かに聴いてくれるんかなと思って、ダンス煽らんとこうかって決めてたやん」

熊「手元的にもね、タイミングがなかなか難しいのもあって」

石「振り付け教えてあげられへんしで、やらんかったんやけど、いざツアーはじまったら初日からばり踊ってくれるやん。そんで今日ついに、踊ろうぜ!って熊谷言ってて、煽ってるやーん!ってなった」

熊「踊りたくなっちゃったね、やっぱり」

石「それの笑いが、3分後に、きた(笑)」

普段のバンドに比べて、アコースティックはフロアの反応が特によく伝わってくる、ってお話。ここでそういう雰囲気になるのかとか、ここでクラップするのかとか、セトリだって毎回そんなに大きく変えられるわけじゃないにも関わらず、会場ごと回ごとで全く違う反応に「ライブってのはナマモノなんだなって、改めて、もしかしたらこのツアーではじめて思ったかもしれない」って熊谷さんが言った。そこに関しては、私たちはとっくに知ってたよ、って声を大にして言いたい。例えセトリが同じだとしたって、同じ公演なんてひとつとしてない。その何もかもを見届けたいんだよ、ずっと。そのことが彼らに本当の意味で届いた気がするのは、アコースティックワンマンのひとつの功績なのかなって思う。


「本当にずっと、1時間でどうしたら満足してもらえるかをずっと、考えていて、それで、普段のワンマンと同じだけの準備期間を設ければ、それをぎゅっと凝縮させて詰め込んだら、同じだけのカロリーになるんじゃないかと思ったんです」

熊谷さんのPCにある『料理店』って名前のフォルダが300GBくらいの容量だとか、「M1、世界を回せです。確認お願いします」みたいなデータのやり取りをメンバーとたくさんしたとか、演奏曲のほとんどをリアレンジしているとか、そういう準備に費やしてくれた時間やそれに伴う想い、充分すぎるくらい届いている。初日にあの高カロリーな1時間を摂取した瞬間には十二分に伝わってくるものだった。いつだってどんなときだって、楽しんでもらうための創意工夫を惜しまない、練りに練って、これでもかと凝って作り上げてくれる、それが、これまで私が経験してきた、私たちが知っているBURNOUT SYNDROMESだってこと。その事実を、その幸福を、今回のツアーでも確認した。あらゆる感情を抜きにして、至極端的に言ってしてしまえば、きっとそれだけのこと。嗚呼でも、想像以上に本当に、濃縮された満足度の高い1時間だったのは、それだってほら、いつだって期待を超えて楽しませてくれるのが彼らでしょ。ほらね、これがBURNOUT SYNDROMESなんだよ、って誰かに叫びたい衝動にも駆られたし、ひとりぐっとこの大好きな気持ちを噛み締めていたいとも思った。

「普通ならもうちょっと手を抜いてもいいのかもしれないけれど、凝り性なんでしょうね、なんかね。僕がいちばんふたりに無茶振りしてます」そう言っていたのは、たぶん1部のMC。


「逆詐欺師」なんて、謎の強ワードが飛び出したのは2部。アコースティックワンマンと銘打ったライブだけど、その中身はアコースティックって言っていいのかわからないくらい挑戦的なもので、ある種の詐欺に近い。でもそれは、例えるなら、「通販で2000円のものを買ったはずなのに、届いたのは4000円のものだった、みたいな、相手に得をさせる、逆詐欺」っていう熊谷さんの説明。「誇小広告ってことね?」って石川さん。どんなに作り込んで作り込んで届けても「逆詐欺師としては、まだ足りない。もっと与えたい」って熊谷さんが言った。曲振りなんだとはわかっているけれど、既に充分すぎるくらい与えてもらっていることも知っていてください。

石「引いてみたらいいんじゃない?ずっと、最大音量で届けてるから、みんなそろそろ疲れちゃう」

熊「さすが恋愛マスター」

石「いまそれで困ってんねん」

熊「え?なに?どういうこと?」

石「バンドやっても、30になっても一向にモテへん。俺が悪いん?」

熊「石川くんが悪い」

石「じゃあもう、恋愛マスターとか言わんといて!」


石「さっき俺が楽屋でなに食べてたか思い出して」

熊「フランスパン?」

石「そう!フランスパンは、小麦を味わうもんやん?」

熊「素材そのままの味を、ってこと?」

石「『6品目、白米です』って出す料理店、カッコよくない?」

熊「確かに。ちょんって米粒出されたら、これはさぞ美味いんやろうなーーー!って思う」


熊「つまり、エフェクターは?」

石「いらない」

熊「(踏み、OFF)マイクは?」

石「それもいらない。それじゃまだドリア」

熊「(マイクから顔ずらして)これか」

石「そう!ようやく白米よ」

白米って表現と全身真っ白な衣装の熊谷さん。ぴったりすぎる喩えだなー、なんて可笑しくなって思わず顔を背けたら、熊谷さん自ら「白いし?」って立ち上がってお洋服引っ張ってて、ああこれは笑っていいってことですね?って我慢をやめた。ステージには、膝から崩れて笑い悶え苦しむいしかわたいゆー。そのまま、笑いの余韻が消えないフロア(とおそらく石川さんも)に「これじゃ曲いけない、盛り上げすぎた…(笑)」って立ち往生の熊谷さん。

石「ちょっとやり直そ!廣瀬くん喋って!」

熊「一旦ハケるわ」

廣瀬さんが厳粛な雰囲気と口調で、丁寧に丁寧に場の空気を作ろうと流暢に言葉を繋いでいる間、袖で立ったままちょこんって待っている熊谷さん。

廣「それでは登場していただきましょう。料理長の熊谷和海です」

ゆっくりと上手袖からセンターに歩み出た熊谷さんの恭しい一礼、からのひと言。

熊「お米です」

再びの笑いの渦。

石「ちょ(笑)お前、終わらす気ないやろ」

熊「終わらせんよもう」

お米の衝撃が強すぎて、ここの1部の記憶が皆無です。本当に、終わらなくてもいいのになって、このまま楽しい時間を引き伸ばし続けてくれるのは一向に構わないし、むしろ延々に続けばいいのにって、心の内で唱えた。


「30歳手前になって、自分でも明るくなってきたなって思うんです」って、それは音楽に出逢えたからだと、言葉にしていた。2年間ずっと待っていてくれたあなたと、今日来てくれたあなたと、出逢ってくれたあなたと、いつも協力してくれるスタッフの方への感謝も含めた「音楽への感謝を込めて」はじまった、こどものじかん。視覚も聴覚も何もかもを、真っ白な熊谷さんに注ぐ。ワンコーラスまるっと、空気の振動がそのまま直接鼓膜を震わす、極上に甘美な時間。

「あなたと出逢えた人生に後悔は無い」

「どこかで道を違ったら巡り会えぬ奇跡が此処にあるよ」

ストレートな歌詞が、母親目線である歌詞を超えて、熊谷さん本人の言葉としてじんわりと響く、届く。音楽を通して出逢った全てを慈しむように、その奇跡への感謝を届けるように。2番からはアコースティック編成で。


放射状に伸びる光の筋と、澄んだ空気を具現化したように響くメロディ。歌詞にならない熊谷さんの伸びやかな歌声に、重なる石川さんのコーラス。この先も続く未来を温かく照らし出すように繋げられた、白線渡り。こどものじかんから物語を引き継ぐチャイムの音が、ノスタルジーを刺激した。最後の一節は、再び素材そのままの熊谷和海を。カチッと確実にエフェクターを踏んだ足で、そのままセンターに歩を進める。力強くそれでも柔らかく、響く生の歌声。ロングトーンのビブラートを生み出す震える口元。熊谷さんの「ありがとうございました」って一礼に続いた拍手が、生声の余韻を吸収していって、ようやく呼吸することを思い出した。盛大にノスタルジーな、思い出のグリルでした。


「名残惜しいです、終わりたくないです、足りないです」楽しい時間はあっという間で、まだもっと、少しでも長く、って欲張っちゃう気持ちと、でも充分すぎるくらいに満たされている心で迎える、最後のお楽しみ。また逢える日のことを想って、フロアの手拍子を添えた、吾輩は猫である

「君のクラップの上 今は此処が楽園である」

「観客でもありメンバーでもある そんな君との関係に名前は要らにゃい🐾」


2年越しの料理店の閉店を知らせる、星の王子さま。ハンドマイクの熊谷さん石川さんと、手持ちシンバルを奏でる廣瀬さん。


どうだった 我がレストランは?

堪能した?

それは何より

君が笑ってくれたら 開いた甲斐があったよ

心が乾くとき 音楽と愛に飢えたとき

気兼ねなくおいでよ いつでも待ってるから

鳴らせ 鳴らせ お腹をぐうぐうと鳴らせよ

響かせ


充分すぎるくらいに受け取った想いも、BURNOUT SYNDROMESが大好きだって言う気持ちも、開催を選んでくれたことへの、こんなにも楽しませてくれたことへの感謝も、全部嘘さ、なんて覆される未来が訪れることはこの先もきっとない。心からの確かな、希望。


メンバーそれぞれの礼。熊谷さんが優雅な手振りで石川さんと廣瀬さんを送り出して、最後に再びの一礼。無人のステージに流れる、熊谷さんの声が、大満足の料理店の閉店を告げた。


レストランとは一夜の夢でございます

みなさまとの一期一会の席に感謝を

そして、あなたの旅路に、音楽と音楽の光が在らんことを

それでは、また逢う日まで

Merci

-注文の多い料理店-

 

本日限りのアミューズ
01.星の王子さま-Overture-
前菜
3奏のミルフィーユ〜緩急を添えて〜
02.世界を回せ
03.花一匁
03.PHOENIX(大阪②名古屋①)
04.夕闇通り探検隊
-MC-
スープ
無茶振りの激辛スープ
05.(東京①)Ocean〈3人でハンドマイク〉
05.(東京②)Bottle Ship Boys〈ガラクタドラム〉
05.(大阪①)吾輩は猫である〈ヘリウムガス〉
05.(大阪②)PIANOTUNE〈ガラクタドラム〉
05.(名古屋①)Hikousen〈楽器シャッフル〉
05.(名古屋②)ラブレター。〈ガラクタドラム〉
-MC-
魚料理
再会のアクアパッツァ
06.FLY HIGH!!
07.ハイスコアガール
-MC-
肉料理
思い出のグリル〜ノスタルジーソース仕立て〜
08.こどものじかん
09.白線渡り
デザート
最後のお楽しみ
10.吾輩は猫である
10.君のためのMusic(大阪①)
11.星の王子さま-Fin-