注文の多い料理店-☆☆☆- 東京編

BURNOUT SYNDROMES

東名阪アコースティックワンマンツアー

注文の多い料理店-☆☆☆-」

2022.04.24(日) @渋谷CLUB QUATTRO

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2022年4月24日(日)、渋谷の天気は生憎の雨。折角セットした髪が崩れていくもどかしさとか、傘のせいでどうしたって片手が塞がる煩わしさとか、そういう雨の日特有の不自由さに沈みそうになる気持ちを圧倒的に凌駕していた、やっとあの三つ星レストランがグランドオープンを迎えるんだ、っていう喜び。注文の多い料理店という青春文學ロックバンドに似つかわしいコンセプトにアコースティック編成というイレギュラーの組み合わせのおかげで、想像の及ばない全貌。それに対して寄せる想いは簡単には言葉にできないけど、見知った顔と言葉を交わすたびに膨れ上がっていくばかりの期待感。

自分の整理番号が呼ばれるのを粛々と待っている待機列。湿気で重苦しささえ感じる階段を抜けて、少しずつフロアに近づいていく高揚感。ああ、渋谷クアトロってこんな構造だったなあって、檸檬や孔雀のときの記憶をひとつひとつ呼び起こしながら、懐かしさを連れて足を踏み入れたフロア。最初に視線を向けたステージは、真っ白な布ですっぽりと覆われていた。その向こうでどんな演出が待ち構えているのか、期待を寄せて、無意識に口数が多くなってしまう。

予定時刻を数分過ぎて、場内の明かりが消えた。張られた布に投影されたオープニング映像。映し出されたのは、ポップなイラストの立派な館。真っ黒な影を纏って聳え立つその館の窓から、爛々と漏れ出る鮮やかな黄色の灯り。そのコントラストが、建物の怪しさをより際立てているようだった。不意に、「にゃー」と聞こえたひと鳴き。周囲を見渡しても姿の見えない声の主が、怪しげな館の上階から、まるで私たちを招き入れるようにひょこりと顔を出して、館の扉が開いた。

3人のシェフたちが順番に読み上げていったこのレストランの案内。注意事項やメニュー紹介。「大きな声を出す必要はありません」「シェフたちからの注文にはできる限り応えてあげてください」「どんなときでも楽しむ気持ちを忘れずに」「守れる方はどなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」宮沢賢治注文の多い料理店に倣った一節を熊谷さんの声が読み上げた。


映像の終わりと同時に、張られていた真っ白な布がすとんっと落ちて、露わになったステージ、その上に既に、BURNOUT SYNDROMESの3人は、居た。劇的な視界の変化が、待ちに待ったグランドオープンの歓びを一層演出する。いつもと変わらず、もしかしたらいつも以上に、特別なライブがはじまる高揚感。

ステージセットは、センター奥にドラム、その前に添えられたカホン。上手にギター。下手にベース、その後ろに黒地に白抜きでバンド名が記されたお馴染みのフラッグ。

料理店のコンセプトを汲み取るように白を基調とした衣装に身を包んだ3人。アシンメトリーなコックコートを模したデザインのトップスをストライプ模様のクリーム色のボトムにインしたハイウエスト姿の熊谷さん。ねえ、ハイウエストなんだけど?!って、それだけで膝から崩れ落ちたって仕方ない衝撃だった。とてもお似合い、好みすぎる。白シャツに緑のくすみカラーを合わせたレイヤードスタイルに、モノクロの柄ボトムの石川さん。色使いも柄使いもとてもお洒落でかわいい。ロング丈の柄シャツに薄紫色のボトムのシルエット、くりんくりんにセットされた髪がベストマッチで、ビジュ爆発の廣瀬さん。


そんな3人のシェフが提供してくれる最初のメニューは、本日限りのアミューズ注文の多い料理店仕様に調理された、星の王子さま-Overture-。ハンドマイクで歌い上げる熊谷さんと、同じくハンドマイクで掛け合い歌う石川さん。お互いに視線を合わせて歌ってるの、尊い。上手でマーチングバンド形態でスネアを構える廣瀬さんが、ビートを添えている。


ようこそ我がレストランに

歓迎しよう君の来店を

君の胸に花と このアミューズを捧げよう

とろけるラブソングを 肉汁滴るエールを

温かいバラードとピリ辛のエレジー

鳴らせ 鳴らせ お腹をぐうぐうと鳴らせよ


プレオープンのときにも聞いたこの替え歌、「お腹をぐうぐうと鳴らせよ」って歌詞がかわいくて愛おしい、お気に入り。2部のどこかのMCで、熊谷さん自らが、これを替え歌にして料理店で歌いたいと提案した、というお話をしていた。アルバム曲の最初と最後を担い壮大な物語を演出するという曲の特性上、なかなかライブではやれなくて、アルバムのツアーでもやれなくて、どこかでやりたいと思っていたこと。プレオープンの前、料理店開催が決まっていた2年前からこの歌詞を聞いているから、「元の歌詞よりまずこっちが出てくる」って石川さんが語っていたこと。彼ら自身も待ち望んでいたグランドオープンなんだってことが強調されたように感じた。2度の延期の決断で、今日までその想いを繋いできてくれたことに感謝しているし、どんなに厳しい条件だって環境だって、たとえ当初と違う形であったとしたって、中止という選択がされなかったことは、誰にとってもどうか幸いであればいいと思う。


壮大なグランドオープンのセレモニーを終え、3奏の前菜として提供された曲は、特別なこの日に感じる高鳴りをそのままテンポに落とし込むように、ロックの気配を色濃く残したまま届けられた、世界を回せ。星の王子さまから繋がる曲はこれ以外にないでしょうって、明星のアルバムを思うと声高に笑いたくなる。軽快な手拍子も、空を切るようにタオルの代わりに回す徒手空拳も、迷いなく突き上げた拳も、アコースティックライブなんて関係ないみたいな熱気。

「延期延期のトラブルも 愛しい仲間と笑い飛ばして」って、変えて歌われたその愛しい仲間に、当然のように私たちを含めてくれていると伝わる気がして、BURNOUT SYNDROMESが好きだなって改めて思う。


世界を回せの熱気を残したまま、続けられた、花一匁。和楽器の音色が不断に添えられたアコースティックアレンジ。迷いなくリズムを刻むフロアの手拍子が心地よく響く。

「ギターソロー!」って自ら宣言してギターを掻き鳴らす熊谷さん。アコースティックギターで奏でられるソロパートは、どこか柔らかくて儚くて、雅に響いていた。重ねられた和楽器の音色がより一層、その雅さを引き立てているし、こういう音をしっかり拾うのは、配信って媒体の方が強いのかなと思うから、後日が楽しみなポイント、ひとつ。

バンド編成のときにはある手数の多いバチバチにカッコいいドラムパートがないのは少し寂しくて、慣れるまで気持ちがそわっとしちゃうから、じっくりしっとり熊谷さんの歌声に耳を澄ませるモードになるのは次回公演まで待ってくださいね、という率直な気持ち。


廣瀬さんの担当楽器がドラムセットからカホンに変わり、シンプルなアコースティックアレンジでの、夕闇通り探検隊。単色の照明、眩いばかりに彼らを浮き彫りにする明暗のコントラストが、この曲のセピアがかった幼少期の思い出の温度を存分に演出している。


しっとりした雰囲気もそこそこに、ポップな雰囲気に変わってのメンバー紹介。「ポジティブ担当」の石川さん、「ネガティブ担当」の熊谷さん、「笑顔担当」の廣瀬さん、それぞれ納得の担当分けがなされた1部と、「おててふりふり担当」の称号を石川さんから剥奪しようとした熊谷さんとの小競り合いと、元気よく声量でその流れを乗り切る廣瀬さんの和やかな2部。ちなみに熊谷さんは「このライブのほとんどを担当しています」って自己紹介をしていた。なるほど今回も熊谷演出。


どこからともなく取り出した銀色のベルを軽快に鳴らして、「オーダー!」っと少し濁声で、石川さんが声高に通した注文は、無茶振りの激辛スープ。事前に募った私たちからの無茶振りをスープのスパイスとして回替わりで提供するコーナー。「なんで、それ言うときアホっぽくなんの」って熊谷さんがツッコんでいたけど、もしかして熊谷さんって、かの国民的人気番組BISTRO SMAPをご存じないんでしょうか。そういう俗世に染まって無さげなところも魅力だなと思いますけど、ちょっと中居くんに失礼な感じになってて勝手に余計な心配をしてしまいます。


1部の無茶振りスパイスは、〈3人でハンドマイク〉。言わば、廣瀬さん個人への無茶振りとも受け取れるこちらのオーダーは、300件以上あった応募のうちの半分以上を占めるものだったとかそうじゃないとか、冗談混じりの石川さんの言葉。「廣瀬くんもたまには、この、お客さんからの圧を前で感じて」と促されて、マイクを持って歩み出てきた廣瀬さんの、その瞬間だけ赤く染まった顔に、こんな無茶振りをしたことへの申し訳ない気持ちを抱きつつも、愛らしく思う気持ちは抑えられなかった。

3人背中合わせに集まりポージングを決めて、曲入りを待つその構図、BURNOUT SYNDROMESってどこぞのアイドルグループでしたっけ?って思うくらいには様になってた。熊谷さんからイケメンのお墨付きを貰ってセンターを担った廣瀬さんの想像以上に堂々とした佇まい。サイドに構える熊谷さんと石川さん。「もはやこれはKAT-TUN、廣瀬くんは亀梨くんと一緒よ」って熊谷さんが言及してたのもあながち冗談ではなかった。コック服をイメージして選ばれているであろう白を基調とした衣装たちが、一層アイドル感を強めていたんだと思う。

想像していた可愛らしいハイトーンとは裏腹に、落ち着いた低めのトーンでの廣瀬さんの歌い出し。たくさん練習したんだろうなっていう丁寧なライムの踏み方。そして素敵な声。マイクを片手に持った廣瀬さんに真正面から煽られるのも、高らかに目一杯響かせる廣瀬さんの声での「宜候」も、なんて貴重な体験。3人揃って「Bermuda Triangleへと」で地面と水平に三角形を描くのも愛おしかったし、途中幼子を見守るような笑みで熊谷さんがくすりと笑った気がしたの、気のせいかもしれないしそうじゃないかもしれない。寸刻前までは自分が座っていた椅子に飛び乗ってフロアを煽る熊谷さんが「アコースティックだろうととべ!」って言ってる気がした。

普段歌わないひとに対してのハンドマイクのオーダーって、かなりの無茶振りなんだろうなって認識があったから、廣瀬さんが「ここ歌っていい?」って思いのほか乗り気で、歌いたいところがたくさんあった、っていう曲終わりの雑談には、安堵のような喜びを感じた。「やるからにはね」って負けん気を見せる廣瀬さん、愛おしい。結局高くて歌えなくて、やっぱり歌って、ってなった箇所もいくつかあったという石川さんのリークもあったりなかったり。


2部の無茶振りスパイスは、〈昔廣瀬さんが使っていたガラクタドラムってどんなものか気になります〉。「なぜ、照明を遮ってまでステージにこれが置かれているのか、気になりませんでしたか」って、石川さんが自身の後ろに置かれていたフラッグがそのガラクタドラムを隠すためのものだったと明かした。つまり、1部のときからそこに隠されていたということですよね。単なるステージセットじゃなかったんだ、って伏線回収された気分になってそわっと胸が高鳴った。

ダンボールでできたバスドラに、鍋蓋ハイハット、バケツフロアタム、そのほか諸々。ひとつひとつ丁寧な解説と一緒に披露される音色。ステージの上の熊谷さんも石川さんも「完全にガラクタの音」って鋭いツッコミを連発していたけど、たぶんフロアは感心して浮き足立っていたと思う。少なくとも私はそう。創意工夫がすごい。ちゃんと音が違う。すごい。

そんなガラクタドラムの音がいちばん引き立つ楽曲として選ばれたのは、Bottle Ship Boys。物珍しい音がフロアに飛び交うライブハウス。それでもテンションをアゲるビートが刻まれていることにはなんら変わりがなくて、きっと本能的に、フロアが手拍子で埋まった。ああでも、これじゃ折角のガラクタドラムの鳴らす音が聞き取りづらいのでは、って葛藤に頭を悩ませた、そんな楽しい体験。

熊谷さんがどこかしたり顔で、楽しそうに「始めはガラクタかき集めて 組み立てたあこがれ」なんて、歌い変えていたその微笑みがとても眩しかった。

演奏を終えて、にこにこで「美味しく調理してくれてありがとう」って熊谷さんにお礼を言う廣瀬さんと「気づかれないように人工調味料大量に使ってます」って明かす熊谷さん。この曲も、配信でじっくりじっくり堪能しなきゃね、って思った。

ラクタドラムの音を聞いて、あの頃の音色は「この音だった!って懐かしくてうるっときた」ってそんな感想を熊谷さんが語っていたことに、無性にじーんとしてしまった。熊谷さんの情緒が現れる瞬間、愛おしい。


1公演に1品のスペシャル無茶振りメニューを終えて、ほかにこんな無茶振りもありましたよ、って紹介されたのは〈廣瀬さんのグッズ紹介(高速詠唱)〉。いつの間にか用意されていた料理店のグッズ一覧のパネル。廣瀬さんだけにこの無茶振りをさせるのは心苦しいからと、石川さんがお金の匂いのするBGMを熊谷さんにリクエストした。熊谷さんが紡ぐ、某猫型ロボットが登場する国民的アニメの某お金持ちのお坊ちゃんのテーマソング。そこに石川さんがビートボックスを加えて、はじまる廣瀬さんの早口グッズ紹介。「Tシャツは当店のドレスコードでございます。タオルは綿100%のふわふわ食感、エプロンは小物入れも付いております。コースターには当店のロゴが印刷されております」などなど、そんなお馴染みのグッズ紹介も、料理店のコンセプトと無茶振りオーダーを上手に和えた特別仕様。

誰がこの無茶振りを送ったのかとても知りたい石川さんが、1部ではフロアに挙手を求めたけど、この回には来店してなかったようでした。残念。「もうこのツアーはこの無茶振りの送り主を探す旅ですからね(笑)」って熊谷さんに言わしめるほどの良無茶振り。1時間という限られた時間を考えても、とても理に適った無茶振りだなあって感嘆した。送り主、見つかると面白いね。


無茶振りパートを終えて、続いての料理は、ノスタルジーを添えたアクアパッツァ(たぶん)。バーンアウトのアコースティック編成はインストアライブではよく披露していたものだったけれど、世の中に感染症が蔓延してその機会も失われていた。だから今日は、あの頃からずっと大切に歌ってきた曲を当時のままのアレンジで、とはじまった、FLY HIGH!!。ゆったりと聴き入る優しさに耳を傾けるノスタルジックな時間。


そこから簡単なタイトルコールで繋いで、ハイスコアガール。低いトーンでキメた1部とどこか爽やかに発した2部。ダークな印象が強まった渋くカッコいいアコースティックアレンジに、カラフルなライティングが映える。「先の見えない未来であなたと一緒に戦ってんのよ」って最後のその一節に胸のすく思いです。コロナ禍になって、自分の無力さなんて痛いほど理解したから、たとえ綺麗事であっても、そんな風に思ってもらえることが何よりの励みだ。


タワレコだったね」って懐かしむ熊谷さんと「あのときは歌ってもらったりとかしてたから、今日よりも注文が多かったと思うで。でもでも、今日もちゃんと聞こえましたね」って添えた石川さん。


ハイスコアガールもほとんど同じアレンジでインストアではよくやっていたんですけど、そのアレンジを僕自身とてもいいなと思っていて、今回改めてばちばちにアレンジして、音源レベルまで仕上げました」と語った熊谷さんの言葉を聞いて、細部まで丁寧に仕上げたアレンジを届けられるのも、ライブハウスっていう音響の整った環境ならではなのかなって思った。


1部では、どこかで石川さんが「手拍子とかのお客さんの反応をイメージしながらリハをしたけど、想像が全然足らんかった」と言葉にしていた。イヤモニを突き抜けて彼らの耳に届く私たちの手拍子。それに熊谷さんも賛同して、普段のバンド編成では、ステージ上も音で埋まっているから、静かなシーンなら梅雨知らず、フロアの手拍子がここまで聞こえてくることはなくて、「廣瀬くんが戸惑っているのが伝わってくる」って冗談めかして話していた。それくらい「お客さんとの距離を近く感じる」のもアコースティックならではで、いまこのタイミングでこの規模の箱だからこそ感じられるものでもあったと思う。

前回彼らがこのステージに立ったのが孔雀ツアーのときだから、5年ぶりの渋谷CLUB QUATTRO。彼らが5年ぶりなら私だって、このライブハウスに足を踏み入れるのはおそらく5年ぶりなんだなって、時の流れを感じた。おかげで、渋谷駅の改札を出て真逆に歩き出したのだって仕方がないよなって自分を慰めることには成功した。

東京にくるバンドマンにとって避けては通れない街、渋谷。あの頃は大きく感じたこの箱を、今日は記憶にあるよりも小さく感じている、と熊谷さんが語っていた。自分たちが大きくなったから、あのとき大きく感じた箱が、こんなにもお客さんと距離の近い空間に感じる場所になったんだ、と感謝と共に言葉にする。

そんな流れで「所詮電気には敵わんのよ、熊谷くんは」って突然の石川さんの厳しいお言葉。「ポジティブ担当の俺がこれ言うのやばいな(笑)」って自覚はあったらしい1部での曲振りからのお肉料理。


2部では、熊谷さんがばちばちに作り込んできた楽曲たちと想いを届けられてよかった、って語った口で、自ら「でも、俺はまだ満足していない」と言い出して、それに賛同するように石川さんが「燻したり煮たり焼いたりしないで、素材そのままの君を味わってもらいなよ」ってそっと促した。「この声を見つけた俺に拍手を!」なんて、主張の激しい総合司会に、促されたからなんかじゃなく、心を込めた割れるような拍手喝采を添えた。

 

熊谷さんがアコースティックギターを鳴らしながらエフェクターを踏んだ音色と生音のままの音色とを交互に鳴らす。「つまり?こう(ジャキーン)じゃなくて、こう(シャーン)?」って悪戯っ子みたいに視線で訴えながら、説明不足にも程があるパフォーマンスで伝えようとしているの、愛おしい。

そのまま、エフェクターを切った状態で、アコギ片手に立ち上がった熊谷さんが徐にセンターに歩み出す。あまりに珍しい姿に、思わずくすりとしてしまう2部でのフロアの素直な反応。それに応えた熊谷さんのお茶目なグーサイン。

お立ち台に登った熊谷さんの声が空気の振動だけを経て耳に届く。正真正銘の生声。

「僕たちを育んでくれて、僕らを信じて会いにきてくれてありがとう」

「いまも本当にこれでいいのかなって思うことはあるけど、こうして応えてくれるあなたの手拍子や拳を見ていると、嗚呼、これで間違ってないなって思える。マスクしてても、今楽しんでくれてるなっていうのは分かるんです」

「2部制になっても、アコースティック編成になっても、バーンアウトならどんな条件でも楽しませてくれるんでしょ?って、ある種無茶振りのような信頼を寄せて、こうして来てくれることが嬉しいです」

ある種の無茶振りと表現されたこの想いを、ハイキューファンの私が何に脳内変換したか、きっと想像できると思う。問答無用で無慈悲な信頼。無茶振りとさえ認識してあげない、当然応えてくれるのでしょう?と信じて疑わない、いつだってこの脅迫にも似た信頼に期待以上に応えてくれるBURNOUT SYNDROMESがどうしたって最高にカッコいいんだと改めて思う。

熊谷さんが曲名を告げた瞬間、堪えきれずに漏れた歓喜の騒めきがフロアを僅かに揺らした。この騒めきが完全に初見の1部じゃなくて、2部で生じる意味を思うと、払い戻しされなかったチケット分、全員に、この特別な公演を目撃する機会が与えられ続けたっていう優しさが間違いだなんて思えない。

次に熊谷さんの声が空気を震わす直前には、誰もが息を飲んで、全神経を集中させて聴き入ろうとした、こどものじかん。電子機器を介さず、直接鼓膜を震わす、大好きな歌声と儚くも耽美な弦の音色。眩い光が彼だけを照らし出すステージに魅せられている私みたいな人間が、呼吸を忘れるなんてそんな受動的な反応で収まるはずがなかったんだと思う。この歌声に一切の雑音を混ぜてなるものかと固い決意で、息を殺した。体温の上昇を抑えられない自分自身の浮き足立つ気配さえこの瞬間だけは、この空間の特別さに溶け込んで消えてなくなってしまえと願った。そうして空間を占める静寂が、ライブハウスでこそ肌身で感じられる何よりの特別感だと思う。まるっと1番全部を、熊谷和海という素材そのまま無加工の魅力で届けられたという事実が甘すぎて、蕩けてしまいそうだった。あの極上の味をいまだって忘れられない。

「ありがとうございました」って熊谷さんが言葉を発したその後だって、あなたの歌声の余韻を、あの静寂を、破ってしまうのがどうにも口惜しくて、拍手喝采をすることさえ私には憚られた。甘く濃厚で、これでもかと贅沢さが凝縮された数分間。2番からは定位置に戻ってアコースティック編成で、緩やかなテンポと大きなジェスチャーで、彼らが促す手拍子がどうにも愛おしくて仕方がない。


続けて、壮大に拓けた希望を奏でるような旋律と、熊谷さんの歌詞にはならない包み込むように柔らかい歌声から紡がれた、白線渡り。母親が我が子に向ける深く高い愛情を歌ったこどものじかんに応えるように続いたのが、その愛を存分に受け強く気高く生きていく道標のような歌であることの特別さ。彼らが奏でる音が、大きくなってこの場所に帰ってきたその存在が、この場所のまるっと全てを、そこに在る人間の心の動き何もかもを、柔らかく包み込んでいるような雰囲気だった。


「僕たちを育ててくれてありがとう」って、1部でも2部でも、何度もそんな表現をしていた。いつかのツアーでも「僕たちを育んだあなたたち、含めてバーンアウトシンドロームズです」と似たように言葉にしてくれたことがあった。あのとき感じた擽ったい幸福感と今回は重さが違うんだと思う。私が、あるいは私たちが、あなたたちに向けるある種利己的な感情を、自己満足みたいな意地を、問答無用で無慈悲な信頼を、母が子に与える無償の愛に喩えてくれるのは、身に余るほどの幸福なのではないかって思う。それに対しての感謝を最大限のパフォーマンスに替えて届けてくれていることが、こうして大きくなっていく姿を見届けられる機会が奪われないこと自体が、何よりも有り難いことで、決して当たり前じゃない、特別なこと。

最後に再び、センターに歩み出た、熊谷さんの生の歌声。歌詞として以上の意味で届いた、一節。

「汚れた街で 今日まで真っ直ぐ 育ててくれてありがとう」


あっという間の、けれど恐ろしく濃密で想いの凝縮された1時間の締めくくりに提供されたデザート。「今日ここでしか手に入らない食材を使って、最後に極上の一曲を一緒に作り上げましょう」って、1部では熊谷さんが私たちを高級食材に喩えた。原作に忠実に、立派に私たちも美味しく食べられる側。この贅沢で濃厚なフルコースを完成させるための食材のひとつ。でもそこに恐怖心や不信感なんて生まれるはずがない。自ら進んで、クリームも塩も全身隈なく揉み込んで、喜んでこの音楽に身を捧げよう。促された手拍子のなかの最後の曲は、吾輩は猫である。2部では自然発生した手拍子に「そう!それです!」って、熱い声で反応してくれた。

「僕らを育んできてくれてありがとう、っていうのもあるけど、もう一つ、僕らと出逢ってくれてありがとう」

私たちをこのレストランに招き入れたあの小さな猫が彼らの化身であるなら、最後にこの曲が届けられるのも必然なんだなって思う。彼らからの目一杯の感謝が込められた歌として届けられた、可愛らしいラブソングを、「そんな君との関係に 名前は要らにゃい」なんて、そんな恥ずかし気に歌詞を変えるの本当にズルいと思う。そうやって、私たちのほくほくに温められた心と無意識に緩んでしまう顔は、それぞれの土地に戻っても、お風呂に入っても、きっともう元の通りには戻らないんだろうなって思う。きっともう、彼らなしの世界は考えられない。「観客でもありメンバーでもある」熊谷さんがそう例えたこの関係を、保証されたようで儚くもあるこの関係を、幸せだと思うんだから、それ以上を望む必要がない。


「クラップめちゃめちゃ上手かったっス!お世辞じゃないよ!本当に上手だった!」言わずにはいられない!みたいな熊谷さんの叫びが誇らしかった。バーンアウトが好きとか、このライブを存分に楽しんでいるよとか、出逢ってくれてありがとうとか、そんなそれぞれの想いが綺麗に揃った手拍子になって、彼らの耳に届いているのなら、それはとても喜ばしいことだ。


最後のお楽しみとして届けられる、料理店仕様の、星の王子様-Fin-。

「どうだった 我がレストランは?」

「君が笑ってくれたら 開いた甲斐があったよ」

辛いときには気軽においでよ、ってそんな意味合いの歌詞が続いて、彼らがいつでもこの場所で待っていてくれることが大前提にないと出てこないであろう替え歌が、存分に心を満たしてくれたこのフルコースの締めくくりには相応しかった。極上に甘く濃厚で素敵な音楽のフルコースでした。ご馳走さまでした。