TOKYO 広島公演

BURNOUT SYNDROMES

全国ワンマンツアー2022「TOKYO」

2022.02.05(土) @LIVE VANQUISH


開演を心待ちにする間、流れ続けていた2020年渋谷の旅。アルバムTOKYOのはじまりを担うその曲が、開演を告げるように音量を上げ、フロアの照明が暗くなる。薄く透けたスクリーンに投影されたオープニング映像。すーっと伸びた、青色の線が1本。VICTORYへの案内標識。縦型信号機に青色の点灯。BURNOUT SYNDROMESの軌跡としてのアルバム、それぞれを停車駅に線路を進んだ先、突然の赤信号にマスク。黒色に飲み込まれた進路、先の見通せない暗闇を避け、新たに発生した朱色の線路。この2年間行ってきた配信ライブを停車駅にして、進んで行くその軌跡。何度も、何度も、青色の線路と交差しながら進む、その意味を考えると不意に視界が滲む。


ようやくの青信号と、忠犬ハチ公像。進行可能を告げる点滅音。BURNOUT SYNDROMES ONE-MAN TOUR「TOKYO」6公演目、2022年2月5日(土)、広島公演、LIVE VANQUISHでのセミファイナル。ライブハウスのロゴ、そんなデザインしてたんだなって思いました。ヴァンキッシュってとても厨二心を擽るカッコいい響き。


本日の熊谷さん、前髪横に流してておでこ見えないけど、その無骨さ素朴さみたいなのがまたいい。とてもいい。整った無造作な感じ、とてもいい。非常にいい。好き。適切に形容し難いけど、人工的な自然体っていうアンバランスさがある感じ、好き。そしておしゃれペンダント。モチーフとかまではっきり確認できないけど、フリル襟の白シャツにとても映える。もしかしてこの白シャツは、フリルバンドカラーの王子様シャツにケープ重ねてるのかな。一着じゃなくて、重ね着コーディネートなのかな、とか、特定したくて仕方ないからたくさん可能性を考える。


1曲目、Good Morning World!。「絶景」のとこで両腕広げて、ズバってフロアを指差す、力強さとキレ。アクションが大きいの愛おしい。

蒼穹の果て」で青色に照らされるステージと、信号機の点滅音。とても綺麗でした。


続いた、ロザリオをはずして。ばちばちにライブ映えするカッコいい曲。カラフルな照明がアニソンっぽいこの曲に似合ってるなあって思った。熊谷さんの長い前髪からチラリと覗く目が、時折フロアを見渡すの、なんか、怪しげで、ぞわぞわした。久しぶりの棘と影のある感じ、鋭い。


再び鳴りはじめる信号機の点滅音が、次第に高音低音を行き来するリフに変化して、次の曲を教えてくれる。渋谷が舞台の上昇志向の女の子の歌、エレベーターガール。TOKYOっていうアルバムに自然に溶け込む選曲。最後の最後、シンバルの乾いた音がとても綺麗に響いて、最低で最高な初恋の終わりを告げた。


終わる恋もあれば、映画のように劇的に始まる恋もある、この対比。石川さんに手拍子を求められるまま、流れる煌びやかなSEにクラップを乗せて、Love is Action!。

低めのトーンで「SATC」って歌うの、好きなとこ。どこかでウインクぽいことしてるように見えたのは、妄想でしょうか、熊谷さん。キラって飛んだ気がしたのは星かハートか。卒倒しそう。アウトロも「最後ー!」ってクラップ煽られるのとても好き。「素敵なcrank-upをありがとう」的な締め。


マイクに向かって俯きがちに眼鏡くいってあげる瞬間好きすぎて、どこのタイミングだったかなあ。本当に、眼鏡って最強のアイテムだと思う。

熊谷さんが高らかに弾きあげる結婚行進曲で、はじまる、世界は愛で満ちている。あらゆる所作が美しくてただただほわーっとなりながら眺めちゃう。マイクを優しく包み込むその両手とか。名残惜しげに残った人差し指が、ぱたんと落ちる瞬間とか。熊谷さんの手、好き。

愛、愛、愛で満ちた幸福の余韻で静けさに包まれるフロアに、不自然な間を伴って飛び込んだ…愛。生まれた違和感を増幅させていく「make」「love」「make love」「make「money」飛び込んだ歪んだお金の匂いを主張するエフェクトボイス。不穏にどこか荘厳に流れ出すSEとくり返される「I make money」が、愛をお金で上書きした瞬間。

余談なんだけど、make loveって意味を意識して使ってるのかな。単なるmoneyとloveとの対比ってだけなのか。古の英語の授業での記憶が私を少しだけそわっとさせる。


黒背景のスクリーンに映し出された「唱え奉る!」の筆文字殴り書きと、熊谷さんの読経ではじまった、邪教・拝金教。

教祖さまを崇めるように両手を頭上に掲げたリズム隊。絶妙に傾げた首の角度とか、虚に照らされる眼とか、石川さんのダークな艶かしさにも酔いそうになる。

眩いばかりの照明が後光になって、教祖さまを憑依させた熊谷さんのシルエットを浮かび上がらせていた。時折重なる光の筋が作り出す陰影、怪しげに浮かび上がるその表情、眼。人としての実態が鮮明に見えない分、一層、お金という概念の邪悪な崇高さを際立たせている感じがした。


「みんなの声が聞きたい」って話し出す石川さんを「時代が許しませんよ」って諭す熊谷さん。めげない石川さんが「考えてきました!」ってはじまるコーナー。陽気なクラップとSEで迎えられた、緊急特別企画、LINEトーーーク!石川さんが会場の誰かと直接LINEのやり取りをしちゃう、素敵企画。広島は、熊谷さんもトークのやり取りをするっていうプレミア回。「福岡広島で美味しいもの食べた?」ってやりとりの流れで、広島はむすびのむさしのおにぎりが有名で、野球観戦のときに食べるっていう話を「カープ好きのバンドマンから聞いてん」って石川さんが言ったとき、(大野さんだ、そのバンドマン大野さんのことだ)って思ったひと、絶対私だけじゃない。

この企画のなかで、トークの内容からふんわり決定される日替わり曲。「ブチ上げ系?しっとり系?」「ラップあり?なし?」石川さんから提示される選択肢をアキネーターのように(熊谷さん談)選んでいった末、選曲は、ブチ上げ系のラップあり曲。

石「OK、決まりました!」

熊「メンバーにもうちょっとヒントを」

石「いける?廣瀬?こっち(サーファーのジェスチャー)やで。こっち(ロン!のジェスチャー)じゃなくて」

メンバーだけじゃなくて、フロアにもしっかり伝わって、発生する歓喜の拍手。


「波があるなら乗るしかない」なんたって私たちは、Merodic Sufers!手拍子をし、「サビメロで拳あげろ」って熱い先導に倣い拳を掲げ、振り回し、揺らし、緩やかに左右に腕を振って、彼らが作り出す音の波に果敢に乗っていく感じ、最高に楽しい、ライブの感覚。

「皆さんやること多い。対応力が凄い。我々じゃなくて、皆さんが神対応」って熊谷さんが添えた。


折角椅子があるからと、座ることを促されて、じっくり聞いた、彼らの広島の想い出。苦しかったあの頃の記憶。前日が熊本で、そのときは取り置き3人くらいだったのに、広島はひとりもいなくて、一生懸命広島に住んでる知り合いにお願いしまくって、なんとかひとりを確保したこと。対バンの相手も取り置き居なかったから、危うく誰もいないフロアに向けて演奏することになっていたかもしれないこと。

「未だにその頃が辛かった思い出のボトムなんですけど、あの時代があったから、いま何があっても、これから何があっても、あの頃よりは大丈夫だと思える。10年前のあの頃が、いまの自分を底上げしてくれているように、いま、きっとどんな立場の人も苦しい時期だと思うけど、10年後とかに思い返したとき、頑張れるような思い出になるときがくる」っていう、凡そそんな感じの、熊谷さんの言葉。苦しい時期の自分を励ます歌だ、ってはじまった、模範囚。

しっかり聞くための空気を作ってくれたおかげか、「せめて」って熊谷さんの第一声がとても沁みた。

「己が心映すから 現世(うつしよ)か」

天獄か地獄かは自分 次第」


「このツアーTOKYOで俺はそう思ったんです」


エメラルドグリーンのニューギターをアコースティックギターに持ち替えて、スクリーンにはキラキラと儚げに輝きながら散らつく雪。逢いたい逢えない。CHiCOさんとのフィーチャリング曲。

人混みを抜けるように歩いたり、頬に落ちた白い雫を人差し指で表現したり、徐ろに少し振り返ったり、歌詞に倣った仕草を入れながら歌う熊谷さんの姿が、どれも心を擽る。

「君がいないとさ」っていう男性口調と「連絡先は消してない」のメロディ、男性目線に統一した歌詞の歌い替えに加えて、ここもきっとひとりで歌う仕様の部分なんだろうなあ、たぶん。


「なかなかゲスト呼んでとかは難しいので、僕が全部歌ってるんですけど、今日はなんか、逢いたい逢えない feat.広島の皆さん!って感じがしました!」って、決まったやろ!ドヤ!って拍手を求める顔で待っている熊谷さん愛おしい。過去ツアー、そのツッコミ待ちの間を操っていたのは石川さんだった気がしてますよ。その石川さんが補足とツッコミ役を担っているの、ボケツッコミ入れ替えた漫才を観てるみたいなプレミアムな気持ち。

「皆さんと向かい合ってるから歌えた感じがした」って、逢いたくて逢いたくて恋しい気持ちで通じ合ったって意味なんだなって思うととても腑に落ちる。

心が通い合って満足した熊谷さんが、控えめな高さで、でも力強く、親指立ててグーサインで石川さんに合図を送った。「そのサイン、後は任せたって意味ちゃうねん(笑)」って笑いながらそれを受ける石川さんが、「広島弁女子にモテたいから、まだまだここからブチ上げたい」って言い出して「ブチ上げる理由はそれでいいの?」って嗜める熊谷さん。そんな理由では全く気が乗らない熊谷さんは、廣瀬さんも石川さんと同じように思ってるなら仕方がないから従うと廣瀬さんに意見を求めた、その返答は「いや、別に…」ってズバッとばっさり。広島弁の女の子にモテたくてブチ上げたいのは石川リーダーひとりということでした。ここから煽り役を廣瀬さんが引き継いだ。「まだ満足してもらっちゃ困るよ!」ってニュアンスで熊谷さんへ叱咤激励する廣瀬さん。楽しそうに「いいぞいけ!もう一声!」と廣瀬さんの煽りを煽る石川さん。「慣れない煽りをしようとしてる」って冷静ながらも楽しそうに援護する熊谷さん。3人のわちゃわちゃ、からの熱く熱く吹き荒れる雪の歌、BLIZZARD。間にMCを挟んでいるけど、そういえばここも雪の曲繋がり。


そして、再び雪景色を繋いで、銀世界。好きだなあ。ライブで肌で感じた高鳴りが、イヤホンで聴いてるときもそのまま思い起こせるのがとても嬉しい。気持ちを前のめりにして、心拍数上げてくれる曲。


怒涛のタイアップ連投。繰り出されたのは、不死鳥の曲、PHOENIX。これはもしかしたら、Mr.Whoが再来して時間を止めに来たのかもしれない。揺らぐ拍と途切れ途切れの同期、演奏も歌も止めることはなく続けながらも、斜め上に視線送って様子伺う熊谷さんの仕草と表情がめちゃんこ可愛かった。やばい?いける?止める?いける?いくか!って誰に対してでもなく視線で語ってるかのような泳ぐ目線。思考過程が視線に表れてる感じ、めちゃんこ可愛かった。可愛かった。可愛かった。焦ってもいるんだろうけど、楽しそうでもあって、可愛かった。

「鉄壁」で手の平見せて壁を表現、「砕いて」って拳で打ち砕く、一連の所作が毎回とても好きです。武闘家みたい。


束の間の暗転とすかさずPCを再起動した廣瀬さんのファインプレーを語る熊谷さん。率直な不安な気持ちの吐露と、それでもあなたがいるから止まっても続けられましたっていう臨機応変な熱い熱いMCで続ける、FLY HIGH!!。途中で止まるかもしれないなかで続けるのは、そりゃあ不安だろうなっていう至極当然な感情への共感、それでも多分、続ける以外にはない選択肢と、トラブルなんて関係なくそれを望んでいる私たちと。「バーンアウトシンドロームズのモチーフは鳥です。俺と石川ふたりが翼なら、廣瀬とあなたは胴体」そんな恐れ多くも嬉しいことをどこかのタイミングで言ってくれていたような、そうじゃないような。

変わらず託してくれるシンガロングに応える術は、きっと声だけじゃない。どんな状況も楽しむこと、見届けること。「声なんか出せなくっても、しっかり聞こえています」って熱く熱く語られるその言葉。


想定外の事態はありつつも、そのときその一瞬がかけがえのない特別で、やり直しは効かないから、お別れの時間はどうしたって訪れてしまう。旅立ちを告げる、飛行船への搭乗アナウンス。「それぞれの旅に」って熊谷さんの言葉に、彼らが旅立ってしまうんじゃなくて、私たちもそれぞれに、日常に戻っていくんだなって思った。「見慣れたミラーボールも泣くほど美しい」みたいな歌詞に変えてた気がしたけど、どうでしたか。

石川さん、廣瀬さんとひとり、ひとり、深々とお辞儀をして順番に旅立っていく、その最後に熊谷さん。高々とギターを掲げて、両手を合わせて深々と。人のいなくなったステージ、スクリーンに映し出されるエンドロールと、TOKYOの文字と、熊谷さんの手書き文字の感謝の言葉。


アンコールの手拍子のなか、ステージのセッティングが整ったところで、登場したフロント陣ふたり。「いやーわくわくするな。俺はわくわくしてるでアンコール」って強がりのようでもあり本音のようでもある石川さんの言葉。「我々今回からシステムを変えてまして」って状況説明をはじめる熊谷さん。いままでは熊谷さんが自分で足元のエフェクターを踏んで音を変えていたのが、今回ツアーからMIDIとやらで管理するようになったからエフェクターを踏んで切り替える必要がなくなったこと。それを廣瀬さんが手元のPCで管理してくれていること。つまり廣瀬さんはどうやら番長らしい。その気になれば熊谷さんにギターソロだけを延々に弾かせることも可能だという。なるほど裏番ってことかーって思いました。「自分で勝手にエフェクター増やしてるくせに、こんなん踏んでられるかーって逆ギレした」みたいな表現が、結構好きだったりする。 MIDIについては難しいから塾通ってないと分からないらしいです、はい。そのMIDIがバグって使えなくなったから、アンコールは自分で踏み替えるしかないこと。事情を一生懸命説明する熊谷さんと、プラプラするイヤモニと、それを無言で背後から直そうとする石川さんと、びっくりして振り払おうとする熊谷さんとのなかなかに自由なやりとり。

説明しながら、エフェクターボードをお客さんに見せようと試行錯誤してる熊谷さんが、自然に座って後ろのひとまで見えるようにするフロアの対応に「座ってくれてるやん。民度高っ」って反応した。


「で、そのボードが足元に来たということは、踏まなきゃいけないということです。元々予定してた曲が踏み替える用にはできてないので、アンコールの曲は変わります」旨の説明、からの、高いケーブルさえあればこんな事態にはならなかったのに、ってあれよあれよという間に物販紹介に持って行こうとする石川さんの手腕と、その隣で「ああ、高いケーブルが買いてぇ…高いケーブルが欲しいよぉ…」って譫言のように頭を抱える熊谷さん。愛おしすぎるでしょう。そのタイミングを待ち構えていたように流れ出すmake money money make moneyをBGMに教祖廣瀬さんのご登場。持って行き方が自然すぎて、笑顔になるしかないよね。笑い声は出せないから、普段より余計に自分の肩が震えます。


説明しないと不自然なくらいの状況ってこともあるんだろうけど、丁寧な説明とか率直に言葉にする不安な気持ちとか、等身大の熊谷さんを垣間見てる気がしてほわほわした。シナリオ通りの演出に魅せられるのとはまた別の至高の歓び。こういう状況を説明を加えて一緒に共有させてくれることに、私は幸せを感じていたんだと思う。トラブルのときのあのほわほわした感覚は、そういう多幸感です。


廣瀬さんの物販紹介の後ろで、どこか戯れ合うように曲を確認し合っている石川さんと熊谷さん。アンコール1曲目は、急遽の、ラブレター。だった。この曲を聴くと、終わってほしくないなあって心の底から名残惜しくて寂しくて仕方なかった孔雀ツアーのあのファイナルを思い出す。どうか無事に終わってほしいと願う気持ちの方が強いこのツアーでは殆ど無縁だった感情を、想い出と一緒にこんなにも簡単に引き寄せてしまう曲の力って、すごいなって思う。

「10年前のあの日もこの曲やってました!これはもう、この曲をやれってことなんだと思います。 10年前も取り置きのひとりは座って聴いてましたよ!でもあの頃に比べたら全然大丈夫!だってあなたがいるから!」

どうやら広島には、そういう運命的な何かがあるらしい。そういう、いつの日か笑い話として語ってもらえるような想い出が作られた日に立ち会えること、私にとっても特別。


TOKYOを締めくくる、あなたに送る、はじまりのあの夏の歌、セツナヒコウキ。

「いつも俺を照らすのはあなたの笑顔と無限大の群青」

最後、石川さんのベースのストラップも取れちゃって、笑い合って向かい合って、ジャーンって締めるのもとてもいい景色。

熊谷さんが「破壊的な日」って表現してた。機材たくさん壊れたけど、そうやって笑い合ってるあなたたちの空気感や、この場所で共有できる特別なこの関係性は、例えどんなに時代が困難でもこの先も変わってしまいませんように。


慌ただしくも幸福で、想い出に残る広島公演でした。残すは、ファイナル大阪、だけ。